日本美を表現する色と素材使いが秀逸な、東京千代田区の国立劇場。その国立劇場が、今年10月末をもって建て替えのため閉場されます。人から人へとつながれてきた伝統工芸の場が、昨今の若者離れのため生まれ変わりを目指し取り壊わされるそうです。
日本建築の色による統一感
国立劇場は、日本建築素材の色彩を用いて統一感を与えることを持論とした、竹中工務店・岩本博行氏による設計です。岩本氏は、職人、大工・棟梁の伝統を受け継ぐ考えの人物と目されていたそうです。
建物は1968年に第9回BCS賞を受賞。1998年には公共建築百選。2003年にはDOCOMOMO JAPAN選定 日本におけるモダン・ムーブメントの建築にも選ばれています。若者に芸能が広がらず建て直しとなることは残念でありますが、前庭の造園も美しいく、建て替え前に、日本の銘建築を目に焼き付けに行かれてもよいかも知れません。
ロビーは、芸を見に来たという華やぎが感じられます。一方、普通の服でも観に行ける場の気軽さも感じられます。華やかでありながらなぜか馴染みがあります。
大小の花が、丸玉のシャンデリアから絨毯へと散らばる。なんとなく薄ピンクの桜餅が塩漬けの葉に挟まている色のような。昔のすあまという和菓子の色を思わせるはんなりとした色調。
どことなく優しく馴染む色使いです。
大道具や緞帳
劇場で演じられる歌舞伎や文楽、日本舞踊などの芸能ももちろんですが、劇場の舞台大道具のつくりや緞帳には格別興味深いものがあります。
豊かな色彩と織による表現
金や萌黄。かすむ風景に、四季の草花。思えば日本は本来色彩豊かなインテリアでした。
海外で劇場の幕といえば、一色がほとんど。柄織も少なく、ビロードのような風合いとフリンジで豪華さを出しています。
複数の色や図柄を、巧みな織により表現する。でも、濃くもうるさくもない。これはとても凄いことと、こんな幕を目の当たりにするとつくづくと感じます。
芝居よりも、仕事柄か大道具の作りについつい目がいってしまいました(笑)。奥の間の松や雲の様。上演中はあいにく撮影できないので、こちらは実際に今回演じられた時の大道具ではありませんが、文化庁や芸能を紹介するページで図や解説が紹介されていたりしています。興味深いですね。
前庭
劇場前にはとりどりの庭木が植えられ、桜も何種類も楽しめる穴場です。2023年9月には閉場講演が予定されていて、庭も変わってしまうのか、工事になればどうなるかは不明です。
再開場は少し先
国立劇場の再建にあたっては民間のノウハウも取り入れ、誰もが入れるロビーに改め、ホテル、レストランなどを含む施設となる予定だそうです。インバウンド客や、周辺の皇居などの環境にも配慮した、国際的な文化観光拠点への変貌を目指すということです。生まれ変わった国立劇場の再開場は2029年秋になるそうです。
時間が止まったような場所が、パズルみたいに挟まっている。
そんな場所が残るといいなと、ちょっと感じるお話しでした。