イヴ・サンローラン展 展示ポイントと裏話

東京都新国立美術館で開催されているイヴ・サンローラン展。展示造りに携わった国立新美術館特定研究員の小野寺奈津氏の解説を聞き展覧会を見るという、貴重な企画に参加させていただきました。

日本色彩学会と国立新美術館の連動企画として実現したこの「新しい色彩」講座。毎回テーマに沿って業界の第一線で活動する方に話をお伺い学びます。今回はイヴ・サンローラン展の色彩展の見どころポイントや展示の裏話。展示を作り上げる過程での苦労話。パリのイヴ・サンローラン美術館の学芸員の方の話などもお伺いし、鑑賞させていただきました。

イヴ・サンローランと色彩について、国立新美術館特定研究員小野寺奈津氏

イヴ・サンローラン展 時を超えるスタイル

モードの帝王”としてファッション史に名を遺したイヴ・サンローラン。実は日本との関わりは深いそう。パリでクチュールを始めるより前にプリンスホテルなどで日本顧客向けに開催されていたそです。

2008年の没後では日本で初となる大回顧展「イヴ・サンローラン展 時を超えるスタイル」。展示ではイヴ・サンローラン美術館パリの全面協力のもと、ルック110体。アクセサリーや、ルックに連動するサンローラン自筆のドローイング。そして貴重な当時の写真を含む262点が展示されています。

展示デザイナー

展示デザイナーに中原崇志氏を迎えて展示構成が行われたそうです。クリエイションは12章からなり、サンローランの軌跡を認識することができる構成になっていました。

展覧会の見どころ

展示の見どころを、国立新美術館特定研究員小野寺奈津氏の視点で挙げてくれました。

  • サンローランといえば色のデザイナーと思われますが、実は黒の表情で有名なのだそうです。黒い布の質感を熟知し使い分けることで有名で、会場入り口も黒でデザインされていました。
  • 裕福な家庭に育ったサンローランは、母親の影響で幼少より服作りに深い関心を持ったそうです。10才半ばではモード雑誌を切り抜いてペーパードールを作成。既にミューズに合わせた90を超えるドレスをデザインしていたのだそうです!
  • 10代半ばで洋服の賞を取り17才でパリへ。19才で憧れのディオールのアシスタントとなりました。
  • ディオール氏が急逝し、21才という若さでディオールの主任デザイナーとなります。
  • 1958年の初のコレクションでトラぺーズライン(台形コレクション)の「品行方正シャツドレス」を発表し、一躍時の人となります。
  • 1962年にイヴ・サンローラン初となるオートクチュールコレクションをパートナーと組んで発表。このパートナーとの関係は生涯続き、この膨大な作品を保存するなど、サンローランの功績を積むうえで重要な役割を担うこととなりました。

ペーパードール

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品行方正のシャツドレス。

ひざ丈の、エレガントでありながら動きやすそうな。今でも皆が欲しいと思う、必要にして十分なデザインのドレス。展示作品の最初から目からうろこ。正直驚きの展示でした。

マネキエンヌ

品行方正のシャツドレスから始まるこれらの展示には、110体のマネキンが使われています。これらはなんとフランスから船便で運ばれてきたのだそう。服の展示で、マネキンは特に重要だそうで、脚の組み方はもちろん。手や顔の角度なども入念に形作られているそうです。

服がそれらしく見えるよう、ボディに詰め物やポーズをつけマネキンを形作ることをマネキエンヌと呼ぶそうです。今回多くの時を費やしランウェイを歩いているかのような姿を生み出したのだそうです。

服やアクセサリーは勿論。ボディに着せられている靴もオリジナルのものだそう。サンローランの良きパートナーでビジネスマン。生涯彼を支えた実業家ピエール・ベルジェ氏が当初から作品を保管し、スケッチも残すよう部屋を借りたそうです。そのような考えをもつ彼の存在なしには、この膨大なコレクションの保存は勿論、繊細なサンローランがデザインを続けて行くこともままならなかったでしょう。

黒のバリエーション

サンローランは黒の質感でドレスを表現することに長けていたのだそうです。また、男性の服を女性用にデザインした作品も多く発案していました。パンタロンやピーコート。ジャンプスーツなどは、彼の発案によるデザインなのだそうです。『女性が自信をもって身に着けられるような服』を思ってのことだそうです。

今ではお馴染みのパンツスタイル。これも、彼から始まったのですね。以外でした。

画家へのオマージュの作品

ゴッホやマティス、モンドリアンといった画家たちの作品にインスピレーションを得た、アートとも言えるドレスやローブが、創り出されていました。

イヴ・サンローランのアイコン

鳩はサンローランのアイコニックアイテムです。睦まじい鳩がドレスを飾ります。

手の表情や、交差された脚の角度。わずかに傾くその姿勢はドレスを際立たせていました。マネキエンヌのチカラなしには、感じられない、確かに作品が動き出すような展示でした。

サンローランのアイコンである鳩をモチーフにしたドレス

夢もあり、実用的でもあったイヴ・サンローランの数々のデザイン。スワロフスキー時代東京や大阪でご一緒し『貴方何か持ってるわよ。頑張りなさい。』と声を掛けてくださった大内順子さん。オートクチュールが紡ぎだす出す時を超えた華麗さに触れ、独特のサングラス姿やファション通信での語り口が蘇えりしばしタイムスリップしたようでした。

夜の美術館での沢山の発見と美術鑑賞。創作に身をささげたデザイナーの足跡にしばし思いを馳せる素敵な時間となりました♡