旧前田家本邸洋館、本邸和館

加賀百万石の当主だった旧前田家の前田利為侯爵の邸宅、駒場前田邸。和洋建築の粋を集めた洋館は昭和4年に、書院造の和館は昭和5年の完成という、昭和の初め色濃い邸宅です。旧阿重田家本邸洋館は、コンクリート造りの化粧レンガ、タイル張りを施した意匠溢れる建物で、延べ床面積2992㎡地上3階地下一階の建物で時の華麗な社交場を思い起こさせます。和館は、侯爵がロンドン駐在武官であったことから外人客の接待用に建てられたとも言われ、縁側からの日本庭園の眺めが美しい建物です。

かつては住宅にもパーケットの床張りが見受けられました。腰掛けるに程よい越窓に豊かなドレープの縁取りが、絶好のピクチャーウィンドウとなって、外の樹木を取り込みます。今ではもう日本製では手に入らないであろう華やかな壁紙や凝った鋳物の暖炉。華やかな色や柄の仕上げではありますが、なぜか華美すぎず、シャンデリアの装飾が控えめな日本らしい美しさを醸しています。

この優美な邸宅は第2次大戦で当主を失い人手に渡り、終戦とともに占領軍に接収されましたが、その後連合軍司令官の官邸として使用され、国に買い取られてより目黒区に移管され、旧前田家本邸として平静25年に国の重要文化財に指定されています。

凝ったカーテンに施したフリンジ。各部屋のカーテンの色はそれぞれ異なります。

 

嗚呼  なんときれいな事でしょう。日本にももう一度、こんなパリで見られるような華麗なる仕上げ材が使われるホテルを作っていただけないでしょうか。

光沢を蓄える綺麗な色の壁紙。コーラルは2019年のトレンド色。カーペットのアクセントカラーはこちらも旬な楽しさを加えるイエローです。照度が確保しにくかった昔ながらの空間に品と暖かみを与えていて、上品ながら美しく愛らしい部屋です。

同様の仕上げでも構築的な石が置かれシンメトリースタイルになると趣が加わり重厚感が加わります。

カーテンはあのいちご泥棒。織物なのでカワセルさんの作品ですね。

金唐紙の壁紙です。触ってはいけませんのマークがありますが、ほんとに触って確かめたい! 紙には全然見えません。何工程も経てとありますが、革と見まがう重厚な様に、紙を使ってでもこの意匠を創り上げた憧れや意気込みを感じさせます。  

これらの中では比較的さっぱりと感じられた次女の部屋でしたが、可愛い花や蝶が壁紙に舞い、面で表される具象化された植物柄のカーテンもなかなか凝っています。日本人は蝶を好まないなどと聞きますが、紋章や昔の柄に良く登場していたような。むかーし作った黒地の帯にも金や朱の蝶が刺繍されていました。着物もカーテンもカーペットも、色がいっぱいでしたよね。いつから日本人は凝った柄物や色使いの仕上げから縁遠くなってしまったのでしょう。

綺麗な書斎室。そう、こんな色物のカーペットも良く敷いてありました。このカーペットもコーラルですね。アールデコな時代の色を感じます。重厚過ぎない部屋の数々に、当主の趣向を感じます。

書斎いいですねー。洋館だけど床しつらえ。壁紙はスイスのサルブラス社のものだそう。一部にオリジナルが残っています。

前田伯爵夫妻の寝室。ベッドやキャビネットなどの家具は英国ロンドンのハンプシャー社の誂えで、船で取寄せられたそうです。壁紙は金と銀。ベッドヘッドの上には前田家の守り刀が設えられています。

ハンプトン社によるっクローゼット、鏡台、チェストのデザイン画。この他ベッドや書斎の机などの家具には、ダイヤとクローバーをモチーフにした装飾が施されているそう。見るとザイン画では洗面が想定されたていたようですね。

長男の部屋の壁紙。トワルドジュイを思わせます。

和館は一転、庭の眺めが楽しめる、客人をもてなしたであろう様子がうかがえる清々しい造りの広間となっていました。