ウイリアムモリスのレッドハウスはモリスが自らの新居として友人で建築家のフィリップ・ウェブと共同で設計とデザインした家です。1860年竣工。アーツ・アンド・クラフツ運動の原点となった自宅兼工房の、英国のケント州ベクスリヒースにあるこの家を訪ねます。
多彩な夢想家
ウイリアムモリスは「モダンデザインの父」と呼ばれます。詩人であり、哲学者であり、アーツ&クラフツ運動の提唱者。多彩な活動を行い、思ったことを形にして商品化をして行きました。
モリス商会
インテリアでは、モリス商会を興した事でも知られています。自然をモチーフとする彼とその仲間の壁紙やファブリックのデザイン。それらは時を超え、現在においても人気で作られ続けています。
レッドハウスは、いわば彼とその一派が創り上げた実験的家です。そこには英国の暗くなりがちな当時の室内を、明るい自然で彩った、インテリアが息づいています。
思ったものを作ってしまう
彼の言葉に「役に立たないものや、美しいとは思わないものを家に置いてはならない」というのがあります。自分の思ったものを実際につくり、それで家を装飾する。彼は決してミニマリストであったわけではありません。ただ、その美意識にそぐわないものは置きたくない。スティーブジョブスのような嗜好で完璧を好むと思うと良いかと思います。
レッドハウスへの小旅行
では、ロンドン・パディントン駅からのレッドハウスへの小旅行。駅を降りた様子や目印の看板を見ながら出かけましょう。
向かう路には、可愛いお家が並び、藁ぶきの家もあります。近くでは、レッドハウス・レーンの看板が見えてきます。ここですね。さて、中はどんなでしょう。
心地よいアプローチ
絵にかいたような、家が見えてきます。ここが入口です。入るのに、ボランティアの方のガイドでツアーに加わります。
理想の家の内部
彼の思いと理想で仕上げられた家。その細部に宿る美しさと工夫。堪能しながらを見ていきましょう。
壁紙に目を凝らすと、子どもの誕生を祝う顔を見つけることができます。梁の隙間に、柄に交じって顔があるの、分かりますか。
デイジーのデザインがステンドグラスに見られます。
モリス手描きのステンドグラス。書かれているのはラテン語で”Si je puis”。”If I can”の意味だそうです。
刺繍のためのベンチ
ジェーンは刺繍が得意でした。彼女のための窓辺も作られここで良く刺繍をしたそうです。デイジーなどは、ここで作られたそうです。モリスの二番目の娘メイは、母のジェーンが得意だった刺繍の才能を受け継ぎ、後のモリスの作品作りに貢献しています。
トレリスの壁紙
壁紙の原板。暖炉の脇の淡いグリーンの壁紙のモチーフ。立てかけてあるのが庭のトレリスをデザインしてできた壁紙。
モリスが初めて描いた壁紙のデザイン。トレリスのモチーフの元となった庭の生垣のトレリス。ここに鳥がとまったのを見てデザインしたと言われます。
わずかな日々と想いでの、レッドハウス
幸せのはずの、友人と作った理想の家、モリスは、わずか5年しか住みませんでした。
モリス商会はインテリアデザインを始めとした設計や装丁などを手掛け、発展します。事業は成功し忙しくなり、ロンドンに通うのは大変ということで、ここベクスリヒースに事務所を移そうと試みます。
バーン・ジョーンズの家族と一緒に暮らそうと、レッドハウスの建て増しデザインまで計画されます。しかし、バーン・ジョーンズの妻の流産や病気、キャリアを成功させていくバーン・ジョーンズはこの地に移ることはなく、レッドハウスでの創作と夢の過程は幕を閉じます。
ラファエル前派のロセッティのモデルだったモリスの妻ジェーンはモリスのモデルにもなり、後にモリスと結婚します。しかしジェーンはロセッティを愛し、モリスを愛することは無かったと言われています。バーン・ジョーンズとの夫婦付き合いは続き、彼との友情も生涯続いたそうです。
こんなに思いが込められた家に、モリスはその後一度も訪れることは無かったそう。移り住まなければなくなり、おまけに色々な思いでが重なったレッドハウス。